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先週からスタートしたソムリエ、石田博のインタビューの2回目。今回は野球少年だった石田が、ホテル入社からソムリエに至るまでの経緯を聞く。また、本インタビューの大テーマである、「表現」について、ソムリエの視点から語ってもらった。
Interview&Text:オオヤユキオ
■ソムリエまでの道のり
──まだソムリエになって日が浅いということですが?
石田 実際にソムリエの制服を着たのが、98年ですね。就職したのは90年です。フランス料理ではないんですけど。ホテルに入社、という形です。
── そもそもの動機は?
石田 いや、もともと僕はプロ野球選手になろうと思っていたので(笑)。
── そうなんですか?(笑)
石田 ええ(笑)。高校卒業する直前まではプロ野球選手になろうと。ただ、ケガとか色々な部分が原因で、野球が自分自身にはもう無理だなと感じて。で、就職するしかないなという時に、バイトがやらないような仕事がいいなとちょっと思ったんですよ。かといって、オフィスワークというのが全く考えられなくて。その当時はそういう仕事は面白くない、と思っていましたね。じゃあ、ホテルなんかいいなあ、と。
── 具体的にはどういう風に就職活動を?
石田 ええとね、「ホテル学校に行きなさい」と野球部の部長が心配して世話してくれたんですよ。それで、ホテル学校に行き始めたら、そうしたら喋りが凄い面白い先生がいてね。その人はもう美食(ガストロノミー)の世界の人で。それで、もう食事の方が面白い! と。一般的に言われていることなんですけど、ホテルのトップになれるのは宿泊出身じゃないんですね。レストラン出身なんです。
── レストラン畑の人はサーヴィスに関して特に敏感ですよね。
石田 そうですね。サービスもあるんですけど、経営面もあるんです。フロントのマネージャーってちょっと数字から遠いセクションなんですよね。レストランはけっこう経営的なマターが多いんです。ですから、総支配人はほとんどが料飲出身ですよ。
── ホテルに入ってからは?
石田 とはいえですね、最初はやっぱりフロントに入りたかったんですよ(笑)。そんなもんじゃないですか、若かりし頃って(笑)。
── ええ、ええ、青くていいですね(笑)。
石田 そしたらですねえ、10人で並んで面接を受けて、僕が一番端で10人目だったんです。僕の前までの9人が揃いも揃ってフロント希望を出しやがりましてね。それだったら僕はレストランで、って言っちゃったんです。
── そんなもんですか?
石田 そんなもんです(笑)。それで、入ったレストランがブッフェスタイルのバイキングでした。我々の仕事が何かというと、料理の補充ばっかりなわけです。
── 困りましたねえ(笑)。
石田 ええ、困りました(笑)。自分がイメージしてきたこと、もしくはこれまで勉強してきたことが全然活かされないわけですよ。だから、一時期は本当に参ったなあ、と思っていましたね。
── そして、復活されると。
石田 参ったなあと思っていたら、そこにソムリエがいたんです。その時の僕は、ソムリエって言葉もよくわからないし、ワインも赤と白があって後は何があるんだかよくわからないような状態ですよ。ところが、そのソムリエの方がとにかく魅力的で面白かったんです。全然違うんですよ。周りがストレスと不満のに囲まれて働いているなかで、一人だけ別の世界にいるような人で。それこそ「人生は美しいか」なんて言っちゃうような勢い。
── 影響を受けていくわけですね?
石田 キザじゃないのに、キザなことを言う人で。面白いし、お客さんさんもいっぱいついていて。その人は配膳やっていたのに、マネージャーやっている人よりもお客さんが多いわけですよ。それくらい魅力的な人で。だから、ちょっと喋ってみようと企んだんです。
── 企みで(笑)。
石田 ええ(笑)。ただ喋るにしても、、話題もないし歳も7歳も違うし。で、考えたのはどうやらワインに興味があるらしいということでワインの本を引っぱり出してきて、質問らしいことをすれば喋れるだろうと。とにかくワインの質問を考えたんです。
── それで本格的にワインの道に進むことになるわけですね。
■ソムリエと表現
石田 今回、「表現」というテーマを最初に伺ったじゃないですか。それで、僕たちの表現と皆さんの表現とどこが違うんだろうと考えてみたんですよ。例えばひとつのものを表現するときに、我々は相手によってその表現が常に変わる、というのが我々の表現の特徴かなあと。
ひとつのワインをお奨めする時に、ワインそのものの味は変わらないわけですよ。だけど、ある人には「強いですよ」と言ったり、ある人には「軽いですよ」と言ったりする。またある人には美味しそうに言ったり、ある人にはあまり美味しくなさそうに言ったりする。常に人があって、それによって変わっていくんですね。
つまり、ひとつの固まったイメージでものを考えていると、表現の幅が狭まる。ひとつの価値観じゃいけないんだ、というのが最近特に感じていることですね。
まあ、そんなことを考えていたときに、もの凄く影響を受けたアーティストがいるんですよ。ええと、米米CLUBなんですけれども。彼らって、とてもエンターテイメント性が高くて、音楽も間口が広いものからマニアックなものまでやるんですよね。それとステージが凝っているんですよ。
── ステージ、凝ってましたよねえ。
石田 そうなんですよ。ライヴのなかで長い芝居を入れてみたりだとか、全く違うジャンルでやってみたりだとか。今までのバンドのライヴとは全く違う。その違いなんですけど、レストランに置き換えてみると、今まではまず食前酒すすめて、食前酒はこういうものを勧めて、料理はこういうものを頼んで、マナーとしてはこういうものがあって……という感じなんですね。魚は白で、肉は赤で。
── ええ、一種のルールですよね。
石田 で、日本人ってのは戦後からそうだと思うんですけど、外国人コンプレックスが原因でテーブルマナーがモーゼの十戒みたいになってるから。だから、こどちらかというとこれまでは我々は威張っていればよかったんです。こうやりゃいいんだ、と言っていれば許された。
── 怖いですよねえ、テーブルマナー。
石田 そうそう。でも、これだけ人によって変えなければいけない職業なのに、一定のルールとテーブルマナー、マニュアルに従ってやっているのはどうかなあ、と。そこでよりレストランを美味しい場所だけじゃなくて楽しい場所にするためには、もっともっとソムリエがクリエイティブにならないといけない、と思ったんですよ。
── 例えば?
石田 そうですね。例えば最近僕が用意しているワインリストは、赤ワイン白ワインって書いていないんですよ。なんで安いものから順番に書かなくてはいけないのか、なんで赤と白を分けて書かなくてはいけないのか……と。それで、人とTPO別にしてあるんです。最近コーヒーショップ用のリストを作ったんですけど、コーヒーショップって色々なシチュエーションが考えられるじゃないですか。ちょっと気軽に寄ってみたり、コースまではいかないけど食べたい、だとか。
── 第三の場所、なんていいますよね。カフェは。色々な人が出入りします。
石田 だからパスタだったら、セレクション・パスタみたいな形で、一皿の軽食と共に楽しめるワインを白とか赤に関係なく選んで。それとセレクション・ソムリエはバランスのいいものを。さらにセレクション・コニサーはワイン通へ、という感じで。もっと珍しいものを飲みたい人にはセレクション・ディスカバリーと分けてみたんですけれども。
──それは、面白そうなんですが……サーヴするのが大変ですね(笑)。
石田 ええ、結論を言うと、ショップの人がなかなか理解してくれなくて、もう一度やり直しなんですけど、そのリスト(笑)。
【第3回に続く】
いしだひろし●1969年東京生。1990年にホテルニューオータニに入社。1994年よりト
ゥール・ダルジャンにウェイターとして勤務。国内の数々のソムリエ・コンクールで
優勝し、昨年のモントリオール世界大会では3位に入賞。日本人としては田崎眞也氏
に続いて2人目の快挙を成し遂げる。
第1回全日本最優秀ソムリエコンクール優勝(96) / 第9回世界ソムリエコンクールオーストリア大会日本代表選考会優勝(96)
/ 第9回世界ソムリエコンクール オーストリア大会日本代表(96) /
第10回フランスワイン・スピリッツ全国ソムリエ最高技術賞コンクール優勝
(98) / 第2回全日本最優秀ソムリエコンクール優勝(98) / 第10回世界ソムリエコンクールモントリオール大会日本代表選考会優勝(98)
/ 第10回世界ソムリエコンクールモントリオール大会日本代表(00)
/ 第10回世界ソムリエコンクールモントリオール大会第3位(00) |