■PiC Interview VOL.005 魚喃キリコ
(第一回)

現在『FEEL YOUNG』誌で『strawberry shortcakes』を連載中の魚喃キリコ。デビューしてからの7年間で単行本5冊という寡作な女性マンガ家は、これまでセンシティブな女性の心象を描き続けてきた。そのハイコントラストの画風と詩的なモノローグは、心のひだに流れる静的な時間をそっと切り取る。そんな27歳の彼女は、 何を思い考えているのだろうか──。

今回はその1回目。取材日は、休載を挟みつつ連載された『南瓜と マヨネーズ』が終了した直後であった。魚喃は、過去の作品と、 『南瓜とマヨネーズ』の休載の理由を明るく語った。

【Text & Photo/松谷創一郎】





──これまでに『Water.』『blue』『痛々しいラヴ』 『ハルチン』と4作発表されていて、最近『南瓜とマヨネーズ』の 連載がやっと終了したところですね。今回はデビュー作で単行本未 収録の『hole』から振り返ってみたいのですが……。

魚喃 あははは(笑)。あれは抹殺された作品なのに。

──絵柄も違うし、あのポップな感じというのは、その後ないです よね。

魚喃 あれは、インパクトしか考えてなかったんですよ。まだマンガ家デビューを目指してる頃で、いろんな出版社に持ち込んでいた 作品なんです。あのテンポはあのときにしかできないもので、それ は良かったんですが、ただ、あのテーマは……。

──ポップにゲイの男の子の関係を描いた話ですね。

魚喃 そう、あの時代はゲイとかホモとか、ジェンダーとか言われ始めた頃で、エイズの問題もあって。それで、同性愛ブームじゃないけど、そういう感じが自分の中にあって。あれはあれで私も好きなんですけどね。ただ、あまりにも絵が下手なんで。

──で、本格的に“魚喃節”が全開というか、作品の完成度が増し たのは、2作目『blue』。

魚喃 あれは、高校時代から、いつかマンガ家になったら絶対に描 きたいと思っていた作品だったんです。

──魚喃さんの実体験が元ネタ?

魚喃 かなり誇張してるんですけどね。女子高にいると、価値観が変になっちゃって、ああいうのが全然不思議じゃなくなるんですよ。 友情と愛情の違いがわからなくなるって感覚。女友達を束縛したい けど、女社会で女しかいないから、みんながライバルみたいに思えて、それで恋愛感情と勘違いするとか。

──けっこう具体的?

魚喃 ええ。好きな人がいたんですよ。最初顔で一目惚れして「こ んな男いたらいいなー」って思ってたんだけど(笑)。

女子高は女の子ばっかりで、3年間同じだと飽き飽きするんで、最初冗談で 「好きな子ができたー。レズデビュー!」とかって笑ってたんだけ ど、だんだん自分で言ってるうちに自己暗示にかかって、冗談じゃすまなくなってきて(笑)。

束縛心が出てきたり、「他の子と喋るな!」みたいになったりして。で、結局自分が気持ちを打ち明けた ら、向こうも「実は私も」ってことで、つき合うことになったんですよ。でも、いま考えると、あれってホントに好きだったって思いますけどね。

──人前で手を繋いでみたり?


魚喃 いや、逆に友達同士だとすごいベタベタするんだけど、つき合ったりすると社内恋愛みたいに人前で隠すことがまた快感になっていくんですよ(笑)。

──なるほど、高度だ(笑)。で、『痛々しいラヴ』はデザイン専門学校に通 ってる頃の話?

魚喃 そうですね。もう全部「ただの日記」って感じ(笑)。実際、ほとんどネタ帳のつもりで日記書いてるんですよ。日記を参考にしないと、ネタがないっていう。

──でも、『ハルチン』みたいなところもある、と(笑)。


魚喃 あれはデビューした頃からやらしてもらってるんですけど、 2年くらい前に単行本になったときに他の作品といっしょに並べて売られてるの見て、「ペンネーム替えれば良かったー!」って思いましたね。あれは知って欲しくない部分だったんで(笑)。でも、 いまとなっては、どうでもいいっていうか、むしろ『ハルチン』的 な部分の方が楽しいというか。

──恥ずかしい部分ですよね。

魚喃 彼氏の前では気取ってて「何にも食べれない!」とか言って たのに、家に帰ってカップラーメン2個くらい食べちゃったりとか、 そういう感じで隠しておきたい部分だったんですよ(笑)。

──あははは(笑)。でも、いまはもうオッケーなんですよね。

魚喃 いまはもう全然オッケー。完全にオッケーになってからは2 年は経ってるなぁ、と。『Water.』は詩とか書いてて、もう 不思議どっぷり。それで、3冊目の『痛々しいラヴ』ぐらいから カッコつけないでやったりするようになりました。

──じゃ、新作『南瓜とマヨネーズ』ですけど、いろいろあったみ たいですね。

魚喃 他のときはあまり疲れはしなかったんだけど、『南瓜とマヨ ネーズ』はさすがにやりたくなかった……。あれは疲れたなぁって。

──3ヶ月間休載したんですよね。
[編註・『CUTiE comic』誌 に連載中の98年11月号〜99年2月号まで『南瓜とマヨネー ズ』は休載した]


魚喃 そう。主人公の重さに負けて(笑)。

──現実の問題が戻ってきた?

魚喃 そうそう。

──ロックですねぇ。

魚喃 あー、いやー、嬉しいです(笑)。

──でもいままでの5作を通してみると、徐々に変わってるのがよ くわかりますよ。

魚喃 それは自分が変わっていくから、そうだと思うんだけど(笑)。 日記だし。

──マンガ家になる頃って、プライベートはどうだったですか?

魚喃 同棲が始まり、恋愛にどっぷり、と。結局それから6年続き ましたからねぇ。

──6年! 

魚喃 規模が違いますからね。同棲と軽く言えないところまで行っ てたという(笑)。

──それが『南瓜とマヨネーズ』の話ですね。


魚喃 そう。同棲、というか、最近は結婚だったと片付けてますけ どね。

──6年は大きいですよね。

魚喃 ですよねぇ。もし子どもがいたら小学校に行っちゃうくらい。 ランドセル買ってるあたりですよね(笑)。でも、6年とは言って も、最初の盛り上がったテンションのまま6年続いたということで はなくて。 だって、付き合ってなぁなぁの関係になってやになるのが、だいた い3ヶ月目くらいじゃないですか。そこで、終わらせるか、そのま ま面倒くさいからダラダラと続けちゃうか、という。私はそのダラ ダラを取っただけで。

──でも、そのダラダラした関係が、ときにふっと幸せに思えたり もして。

魚喃 それもありますけど、やっぱり適度に浮気心も芽生えたりす るんですよ(笑)。「私の人生はこんなはずじゃない!」と思った りだとか。

──まだ重いですか?


魚喃 あ、いえ、全然重くないんで(笑)。

──でもほら、休載したじゃないですか(笑)。


魚喃 あのときは重かったんです(笑)。大衝撃を受けたんで。

──あのときが6年の同棲が終わった頃。

魚喃 そう。でも、その後も「同棲マンガ続けなきゃ〜」という。 それでヤベーと思って、しかもちょうどその頃「マンガ家という仕事もどうだろう?」とか思い始めてて、ダブルで考え込んじゃって やりたくなくなったんだけど、その後に楽天主義になったんで。

──でも、『南瓜とマヨネーズ』は、最後ヨリが戻りますよね。

魚喃 戻ったような、ホントに戻ったのかわからないような。 「いっしょに暮らす」とかそういう言葉の決めごとではなく、お互 い好きだからいっしょにいる、それでいいじゃんよー、みたいなこ とがすごく言いたかったんですよ。それがどこまで伝わったかは自信ないんですけど。

──それにしても、感情移入しすぎて戻ってこれなくなることって ありません? 休載したのは、そういうことなのかもしれないけれど。


魚喃 でも感情移入しすぎて描いてると、書き終わったときに現実 問題が片づいたような爽快感があるんですよ。吐き出すんだ、とか そういう感じで。モヤモヤしつつ描き終わって思うことは、「マン ガ家だからモヤモヤも仕事のタネだ。私の仕事は苦しい感情を味わ うことだ」とか思うと楽しくなる。

第二回に続く


【魚喃キリコプロフィール】
なななんきりこ 1972年、新潟県出身。高校卒業後 にマンガ家を目指し上京。日本デザイン専門学校イラストレーショ ン科を卒業後、93年『ガロ』10月号で『hole』にてデビュー。 その後、『ガロ』や『CCOMIC アレ!』誌などで短編を発表し続 け、96年に初の単行本『Water.』を青林堂から上梓(後にマガ ジンハウスから再刊)。翌年、初の長編『blue』と短編集『痛々し いラヴ』をマガジンハウスから発表し、98年には、『Hanako』誌 で連載していた月イチ2ページ連載のコメディ『ハルチン』の単行本も刊行。昨年は、『CUTiE comi c』誌で連載していた長編第2作 目『南瓜とマヨネーズ』(宝島社)を発表した。 現在は、『FEELYOUNG』誌で『strawberry shortcakes』を連 載中。最近は、『anan』など、女性誌にコメンテーターとして登 場することも多い。



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