■PiC Interview VOL.006 魚喃キリコ(第二回)
魚喃が若かりし頃、世はバンドブームの最中だった。その中で大量
発生したのが、「個性的であること」に自覚的たらんとする"不思議ちゃん"たちだった。魚喃は、多くの"不思議ちゃん"が、結局「個性という平凡」に埋没していくなかで、結果
としては一線を画すようになるが、決して当時から突出していたわけではない。
魚喃キリコインタビューの2回目は、ごく普通のありふれた"オンナノコ"として、当時、彼女が吸収した作品などを中心に語ってもらった。
【Text
& Photo/松谷創一郎】 ........................................................................................................
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VOL.005 魚喃キリコ(第一回)

──魚喃さんって、もともとナゴムギャルだったそうですね。
魚喃 そう。新潟にいた頃、ナゴムを知るまで、自分と気の合う友達がいなかったんですよ。例えば、TVを見て『ひょうきん族』の
ギャグを覚えてないと話ついていけないって感じだったんだけど、 ナゴムを知ってからやっと楽しくなって。すごく少人数だったけど。
でも、ナゴムブームは私が東京に出てきた頃にはもうなくなってて。
──ナゴム以降はどういう方向に行ったんですか? 魚喃 ナゴムの後は、ユニコーンから奥田民夫とかにみんな流れて
いったりして。 ──バンドブームですね。 魚喃 ああ、でも『イカ天』は新潟で放送されてなくって、観たことないんですよ(笑)。
──ナゴムのバンドも『イカ天』にたくさん出ましたよね? たま
はもちろんだけど、ミンカ・パノピカとか。 魚喃 懐かしいー。私は人生が好きだったんですよー。有頂天と人生!
──じゃあ、電気グルーヴとかはまだ好きだったり?
魚喃 好きですよー。バカバカしくて、カッコいい。いまはもうあ
まり知らないんですけど。 ──電グルからテクノに走らなかったんですか? 昔はライブハウ
スに通ったように、90年代はクラブに行くのが一つのスタイルに なりましたよね。
魚喃 それは東京に来てから。でも、私はレゲェに走ったんですね。
当時、新宿の三越南館の前にハイタイムというレゲェクラブがあって、そこに通ってました。週に1回は必ず行って、お友達がたくさ
んいてって(笑)。それは専門学校1年生の頃で、東京を大満喫してる頃ですね。
──カッコいいDJさんもいたりして。
魚喃 いや、当時はまだDJさんがそんなに脚光を浴びてない頃で、
お客さんにオシャレっ子が集まるところだったんですよ。その空間 が楽しかったりとかして(笑)。
──その頃、何がかかってたんですか?
魚喃 シャバ・ランクスとかですね。レゲェっていっても、ちゃんと打ち込み音が入ってるレゲェ。
──クラブってライブハウスと全然違う空間ですよね。
魚喃 フレンドリーですよね。ライブもコンサートよりも近いとこ
ろで少人数で巻き起こってるんだけど、ステージの上と下にいる人間って違うじゃないですか。クラブだと「みんないっしょ!」みた
いな感覚があって。 ──じゃあ、ちょっと戻って、新潟にいた高校生の頃とかはどんな影響を? 世代的には、紡木たくさんの時代ですよね。
魚喃 私、今も好きですよ。文庫で『ホットロード』を買い直して
読んだりしてるくらい(笑)。 ──あの繊細な感じ?
魚喃 いや、そうでもないんです。確かに感動もするんですけど、
それよりもコマ割りとかモノローグの使い方とか、マンガの描き方 として。あれは、とても少女マンガらしい少女マンガだと思うんで
す。紡木さんには絵から入って読んでるんで。 ──たしかに魚喃さんの作品には、モノローグ多いですよね。
魚喃 岡崎京子さんの影響もありますよ。一時期、岡崎さんに狂ったぐらいにのめり込んだことがあって。
──その頃岡崎さんの作品で好きだったのは?
魚喃 『pink』!あれでビックリして。それまでは、紡木たくさんが好きで、少女マンガをやろうと思ってたんです。だけど、岡崎さんの四角と四角を組み合わせたようなコマ割りにビックリしたんですよ。それがカッコイーって思って。
──物語的にはどうですか? 部屋の中でワニ飼おうとか(笑)。
魚喃 あっ、ありましたよ! あの頃、不思議ちゃん気取りだった
んで、ヘビを飼おうとしたんですよ。で、そのヘビには「ワニ」っ て名前をつけようと思って(笑)。そしたら、親に大反対されて。
──あ、ホントに思ったんだ(笑)。それにしても、岡崎さんっていろんな影響を残しましたよね。
魚喃 そうですね。『pink』の頃から、「身体を売ることがカッコ
いい」とか「いい加減がカッコいい」とか、そういう空気が出始めて。 ──それと、今回の同一テーマは小説なんですけど、何を読まれてきましたか?
魚喃 橋本治さんの『桃尻娘』シリーズが、とち狂うくらい好きで。
中学生の頃に、TVの「月曜ドラマストリート」って番組で2回く らい『桃尻娘』をやったんですよ。そのときは小説は知らなかった
んですけど、変な間があって、非常にインパクトが強い構成だった んですよ。それで小説を読んだら、小説にもハマって。
──どんなところに惹かれたんですか?
魚喃 木川田君に惚れたっていう、ごくごく単純な理由もあるんで すけど(笑)。でも、気持ちがすっごいわかる、「あるある!」っ
ていう部分。誰の目線からも読めるというか、高校生の目線でもあ るし、父親や母親の目線で読んだら、それはそれでわかってくるし。
──あー、魚喃さんが好きなのはけっこうわかるかも。
魚喃 たぶん成長期を題材にした作品が好きなんだと思う。ガキから大人に変わっていく世代。『桃尻娘』もそれが入ってるからだと
思うんだけど、徐々に考えが変わっていって大人にならざるを得な いときの感情の動きとか。
あと、普通に生活してて、昔より大人になったなぁって思っても、 いつどこからって具体的に覚えてないじゃないですか。でも小説と
かで読むと、ちっちゃいところで「ああここで変わってきたな」とか、そういうのが見てて面
白い。『桃尻娘』は、その徐々に変わっ ていくのが書かれていてすごいなぁって。
──文章的な部分での影響は、橋本治さんじゃないですよね。橋本さんの文体ってポップだし。魚喃さんはリリカルだし、詩に近いですよね。
魚喃 それは小説じゃなくて、立原道造の影響かもしれないですね。
──立原道造ですか。本上まなみさんも立原道造が大好きらしいで
すよ。 魚喃 えっ、そうなんですか! じゃあ、もし会ったら、根津に立原道造記念館があって、そこがすごく素敵なんですって、伝えておいて下さい。
──あ、はい。会うかどうかわかりませんが(笑)。絵の話も聞こ
うと思ってたんですけど。直接的な影響はないにしても、絵がカッ コいいなーって思うマンガ家さんっています?
魚喃 冬野さほさん、松本大洋さんとか。冬野さんは線がカッコ良くて。下絵を描いてペン入れするわけじゃないですか、私の考えとしてはきちんと下絵を描いたんだからきちんと線を乗せないと気がすまないんだけど、冬野さんはすっごいちゃんと形をとってから、
敢えてラフにペン入れをしてるっぽくて。それがビックリで。 松本大洋さんは白黒のコントラストが強いところとか、あと魚眼レンズ
でのぞいたみたいな絵がカッコいいですよね。 でも絵だけじゃなくて、モノローグの重ね方とかにグッとくるんで
すよ。たとえば冬野さんだと、子供に語りかけるようなモノローグ で。言い回しとか。
──でも、魚喃さんもそういうタイプですよね。モノローグもあるし、さくさくコマからコマへ目を流せないというか、一つのコマが
絵として完成してるというか。それと、線をきっちり描くと言いましたけど、最近線が震えてますよね?
魚喃 ああ、それはわざとです。ラフな印象を持たせるために。
──でも、きれいに描く、と。
魚喃 それは「ラフ」と「雑」の違いみたいな感じ。線の角と角が
ピッチリ繋がるみたいな、実はスゲーちゃんと描いてる。そうじゃ なきゃ気が済まないんですよ。ちょっとハミ出たらホワイト、みたいな(笑)。
──写真も使ったりもしてますよね?
魚喃 背景は、撮った写真を何度も何度もトレースしていて。そのまんま定規で描くと、もとが写
真だからすごく歪んだ印象になるんですけど、でもぐにゃぐにゃな線で描くと、それがまとまるんですよ。
──実は現実って変に見えてたりしますよね。
魚喃 そうなんですよ。 ──松本大洋さんとか井上三太さんも、実際に魚眼を使って背景の
元ネタにしてますけど、魚喃さんもレンズとかのこだわりとかある んですか?
魚喃 全然ないです。普通のパシャパシャ撮るカメラで、一眼レフ
でもなくって。 ──映画とかの影響はないんですか?
魚喃 『バグダットカフェ』と『三月のライオン』が好きですね。
オレンジがかった映画が好きなんですよ。この2本はオレンジっぽ いんですね。
──『blue』ではなく、オレンジ?
魚喃 たぶん、間接照明っぽい色で、心が安らぐんじゃないです
ね。だから、きっと好きなんだなぁ。 でも、『三月のライオン』ってストーリー的にも大好きですよ。近
親相姦モノで、妹がお兄さんを愛してしまい、お兄さんが記憶を失っ たのをいいことに恋人のふりをするって話で。それで付き合ってお兄さんの記憶が戻ってオチが来る、と。セリフを全部言えるくらい
何度も観てますよ。
【第三回に続く】 |
【魚喃キリコプロフィール】
なななんきりこ 1972年、新潟県出身。高校卒業後 にマンガ家を目指し上京。日本デザイン専門学校イラストレーショ
ン科を卒業後、93年『ガロ』10月号で『hole』にてデビュー。 その後、『ガロ』や『CCOMIC
アレ!』誌などで短編を発表し続 け、96年に初の単行本『Water.』を青林堂から上梓(後にマガ
ジンハウスから再刊)。翌年、初の長編『blue』と短編集『痛々し いラヴ』をマガジンハウスから発表し、98年には、『Hanako』誌
で連載していた月イチ2ページ連載のコメディ『ハルチン』の単行本も刊行。昨年は、『CUTiE
comi c』誌で連載していた長編第2作 目『南瓜とマヨネーズ』(宝島社)を発表した。
現在は、『FEELYOUNG』誌で『strawberry shortcakes』を連 載中。最近は、『anan』など、女性誌にコメンテーターとして登
場することも多い。 |