■PiC Interview VOL.008 魚喃キリコ(第四回)
今回は魚喃キリコインタビューを終えた本誌主筆・松谷創一郎が、
魚喃キリコという存在を振り返って書き下ろします。
【Text
& Photo/松谷創一郎】
........................................................................................................
第一回のインタビュー→
PiC Interview
VOL.005 魚喃キリコ
第二回のインタビュー→
PiC Interview
VOL.006 魚喃キリコ
第三回のインタビュー→
PiC Interview
VOL.007 魚喃キリコ
3回に渡ってお送りしました、魚喃キリコインタビューいかがだっ
たでしょうか。今回も、インタビューを終えた感想を記しておきた
いと思います。
さて、魚喃さんの人となりですが、あのインタビューでちゃんと伝
わったでしょうか? それには少々自信もなかったりするのですが、
僕自身の魚喃さんの第一印象は、「ホントにこの人が魚喃キリコ?」
という、失礼にも近い感想でした(ホントに失礼ですが)。
それはやはり『blue』や『南瓜とマヨネーズ』の印象から「魚
喃キリコはずっとインタビューにも出てなかったし、スゲー繊細な
人なんだろーなー」とぼんやり思ってたからなのですが、まぁ冷静
に考えると『ハルチン』もある。実際、彼女はハルチンに近かった。
しかし、いざインタビューを始めると、彼女の根っこにある繊細な
部分もガンガン顔を出しました。その一端は、インタビューの第一
回の後半部分、同棲の話をしているときに魚喃さんが若干無口になっ
ているところなどにちょっと出ています。
ただ、これはネタばらしですが、このとき一度テレコを止め、オフ
レコで彼女の最近の恋愛話に関してどっぷり30分ほど話していま
す。それは具体的すぎるという彼女の要望によりオフレコにしたの
ですが、それから3ヵ月後に行った『ダ・ヴィンチ』誌のインタ
ビューではそのあたりも話していただきました。よって、このイン
タビューでは、彼女の持つ繊細さというのがあまり表に出ていない
のです。そのあたりは申し訳ない限り。
でまぁ、そんな魚喃さんの印象を一言で言うと、「繊細なのに天然、
天然なのに繊細」という感じです。普段は明るく朗らかで天然(失
礼)なのに、心の根っこにはとても繊細でセンチメンタルな感情が
流れている。しかも、そのギャップが不自然じゃない。天然なとこ
ろも魚喃さんらしいし、繊細なところも魚喃さんらしい。それは純
粋だからこそなんですが、しかしそんな一言で片付けることができ
るほど単純な人ではない。彼女は、素晴らしいバランスの人なんで
す。
やはりそれはとても魅力的です。人間としても、女性としても、と
ても魅力的。そしてそれがしっかり作品に反映されているのは言う
までもない。魚喃キリコという人物を知るということは、やはり彼
女の作品を知るということでもあるのです。
で、そんな彼女への取材は、正直大変でした。それは僕自身のごく
個人的な話になるのですが……、えー割愛したほうがいいですね。
いや、やっぱり書こう。
僕はライターという仕事をしているわけですが、それは日々いろん
な人にインタビューするということでもあります。芸能人、役者、
ミュージシャン、映画監督、マンガ家、小説家、評論家、アイドル、
政治家、ゲームクリエイター、ビジネスマン等々。文章を書くだけ
ではなく、人から話を聞き出すことも仕事なのです。
インタビューにおいて気をつけているのは、インタビュアー(僕)
は必ず一歩引いておくということです。何を聞くか、どう伝えるか
という第一目的がありますから、ただの楽しい雑談に終始してはい
けない。また、相手に飲まれてもいけない。どんな取材相手でも、
その人が納得して発言できる状況を丁寧につくらなければならない。
ただし、そんな僕のその明確なスタンス(まだまだ稚拙だと思いま
すが)にも関わらず、僕は魚喃さんに完全に飲まれてしまいました。
昨年末の『ダ・ヴィンチ』での仕事も含めて、2戦2敗。それはこ
の仕事をしてきて初めての体験でした。
例えば、周囲から見るとノリにノっているようなインタビューでも、
僕は大抵もう一人の自分が中空から自分を見ています。ときには、
相手に合わせてキャラクターを替えることもよくあります。若いア
イドルだと、とても元気が良いお兄ちゃんみたいにしたりとか、逆
にケムに巻くのが上手そうな人には思い切り生真面目な人間として
見せかけたりとか。それは、初対面の人間に心を開いてもらうとき
の工夫です。しかし、魚喃さんのインタビューのとき、僕は2回と
も途中から動揺して、弱々しい素の部分をもろに露呈してしまった
のです。幸いだったのはそんなアホな僕に対し、魚喃さんが普通
に 接してくれたことです。
では、なぜ、僕は飲まれたか? それは、彼女自身の恋愛体験とそ
の感情が、そのまま異性である僕に跳ね返ってきたからです。僕は
インタビュー中、昔付き合ってた彼女たちのことをどんどん思い出
しました。そして魚喃さんに当時の彼女の顔が重なり、その一言一
言が僕に突き刺さる。「ああ、あのとききっと彼女はこう思ってた
んだろうけど、俺は気づいてあげれなかったんだろうなぁ」っと。
僕は昔付き合ってた子の繊細な部分に気づかないまま、ひどい対応
をしてしまった。それまでただただ傍若無人に生きてきた僕自身に
とっては、もしかしたら人生で初めての反省だったかもしれないほ
どです。そのような意味で、魚喃さんに出会えたことは、僕個人に
とってはとても大きな体験だったのです。……が、そのためにイン
タビューはボロボロなんですけどね(笑)。
『ダ・ヴィンチ』での仕事を終えた数日後、魚喃さんと2時間ほど
電話で話したことがあります。そのとき魚喃さんに「昔付き合って
子が何を考えているかよくわかった。その子たちにいろいろ謝りた
い気持ちです。いまさら無駄かもしれないけど」と僕が言うと、魚
喃さんは自分の過去を振り返るように「あ、でも、いまでも謝って
もらえると嬉しいかも」と言いました。それを聞いた僕は、「ああ、
こういうふうに思う気持ちは大切なんだなぁ」と、強く思ったしだ
いなのです。それは当たり前すぎるくらい当たり前なのだけど、で
もね、きっとホントに大事なんです。
……ってさぁ、俺、あー恥ずかしい(笑)。何書いてるんだろうっ
て感じ。お前の個人的な話なんて誰も読みたくねぇよ、って思う方
も多いでしょう。はい。それももっともです。でもまぁ、今回だけ
は、“『PiC』主筆・松谷創一郎、魚喃キリコに惨敗の巻”ってことで、勘弁して下さい。ああ、カッコわりー、俺。
(終わり) |
【魚喃キリコプロフィール】
なななんきりこ 1972年、新潟県出身。高校卒業後
にマンガ家を目指し上京。日本デザイン専門学校イラストレーショ ン科を卒業後、93年『ガロ』10月号で『hole』にてデビュー。
その後、『ガロ』や『CCOMIC アレ!』誌などで短編を発表し続 け、96年に初の単行本『Water.』を青林堂から上梓(後にマガ
ジンハウスから再刊)。翌年、初の長編『blue』と短編集『痛々し いラヴ』をマガジンハウスから発表し、98年には、『Hanako』誌
で連載していた月イチ2ページ連載のコメディ『ハルチン』の単行本も刊行。昨年は、『CUTiE
comi c』誌で連載していた長編第2作 目『南瓜とマヨネーズ』(宝島社)を発表した。
現在は、『FEELYOUNG』誌で『strawberry shortcakes』を連 載中。最近は、『anan』など、女性誌にコメンテーターとして登
場することも多い。 |